【速報】OpenAI「Agent Builder」発表──しかし専門家は冷ややか
2025年10月、OpenAIはDevDayイベントで 「Agent Builder」を発表しました。ドラッグ&ドロップでAIエージェントを構築できるノーコードツールとして注目を集めていますが、AI業界の専門家からは「これはエージェントではなく、単なるワークフローだ」という厳しい指摘が相次いでいます。
これをエージェントと呼ぶのは興味深い。実際にはエージェントではなく、単なるワークフローに過ぎない。https://t.co/example
— Kieran Klaassen (@kieranklaassen) 2025年10月8日
Agent Builderとは何か
Agent Builderは、OpenAIがリリースしたノーコードのワークフロー構築ツールです:
- ドラッグ&ドロップUI:Dify、N8Nのようなノードベースの視覚的インターフェース
- MCP(Model Context Protocol)統合:複数ツールの連携が可能
- シンプルな操作性:プログラミング不要でワークフロー作成
- ChatGPT統合:外部アプリ操作も可能
しかし、この発表に対する専門家の反応は予想外に冷ややかでした。なぜOpenAIの新製品がこれほど批判されるのでしょうか?

専門家が指摘する核心的問題:「エージェント」vs「ワークフロー」
Kieran Klaasenの厳しい指摘
AI業界の専門家Kieran Klaassen氏は、複数のツイートでAgent Builderの本質を批判しています:
Kieran Klaassen氏のX投稿より:
「これをエージェントと呼ぶのは興味深い。実際にはエージェントではなく、単なるワークフローに過ぎない。」
「ワークフローとエージェントの違いを理解するために、Building Effective Agentsブログ記事を強くお勧めします。これは重要かつしばしば過小評価されている違いです。」
「エージェント」と「ワークフロー」の決定的な違い
ワークフロー(Agent Builderの実態):
- 事前定義された経路:開発者が設計したノードの順序に従う
- 静的な処理:条件分岐はあるが、ルールベース
- 適応性なし:予期しない状況への対応不可
- 決定論的:同じ入力には常に同じ処理
真のエージェント(Anthropic定義):
- 自律的判断:状況に応じて次の行動を動的に決定
- 適応的学習:過去の経験から学習して改善
- 目標指向:最終目標に向けて柔軟に経路を変更
- 非決定論的:同じ入力でも状況により異なる行動
比較表:ワークフロー vs 真のエージェント
項目 | ワークフロー(Agent Builder) | 真のエージェント |
---|---|---|
実行方式 | 事前定義された順序 | 動的な判断 |
適応性 | ルールベースの分岐 | 状況に応じた適応 |
学習能力 | なし | 経験から学習 |
柔軟性 | 低い(設計範囲内のみ) | 高い(予期しない状況に対応) |
決定論性 | 決定論的 | 非決定論的 |
構築難易度 | 簡単(ノーコード) | 高度(AI専門知識必要) |

Anthropicの「Building Effective Agents」が示す真実
Anthropicが定義する「エージェント」の3つの柱
Kieran Klaassen氏が参照を推奨するAnthropicの「Building Effective Agents」では、真のエージェントの条件を明確に定義しています:
1. Autonomy(自律性)
- 人間の介入なしに目標達成のための行動を選択
- 予期しない障害に対して自ら代替策を考案
- 最終目標のために複数ステップを自律的に計画
2. Adaptability(適応性)
- 環境の変化に応じて戦略を変更
- 失敗から学習して次回の行動を改善
- 新しい情報を取り入れて判断を更新
3. Goal-Oriented Reasoning(目標指向推論)
- 「何をすべきか」ではなく「なぜそれをすべきか」を理解
- 複数の選択肢から最適なものを推論
- サブゴールを自ら設定して達成
Agent Builderが「エージェント」でない理由
Anthropicの定義に照らすと、Agent Builderは以下の点で「エージェント」の条件を満たしていません:
- 自律性の欠如:ノードの接続は開発者が事前に設計。AIが自ら行動を選択しない
- 適応性の欠如:ワークフローは固定。予期しない状況には対応不可
- 目標指向推論の欠如:「次のノードへ進む」というルールに従うだけで、目標達成のための推論は行わない
専門家の見解:
「Agent Builderは、RPAツール(Robotic Process Automation)やZapierのようなタスク自動化ツールと本質的に同じです。これを『エージェント』と呼ぶのは、マーケティング的には理解できますが、技術的には誤解を招きます。」

ターゲットユーザーの二極化:誰が興奮し、誰が失望したか
Dan Shipperの鋭い指摘
Every.comの共同創業者Dan Shipper氏は、Agent Builderの受け止め方が二極化していることを指摘しています:
Dan Shipper氏のX投稿より:
「OpenAIは多くのエキサイティングなものをリリースしましたが、開発者にとってはそれほど興奮するものではなく、組織内の開発者に近い役割の人々にとってより魅力的です。
あなたが会社でAIオペレーションを行っているなら、めっちゃ興奮するはずです—でも、ガチのAIエンジニアにとってはちょっと物足りない感じです。」
興奮する人 vs 物足りない人
✅ Agent Builderに興奮する人:
- AIオペレーション担当者:社内業務の自動化を推進する役割
- ノーコード志向のビジネスユーザー:プログラミングなしで自動化したい
- 中小企業の経営者:開発者を雇わずにAI活用したい
- プロトタイピング重視の人:素早くアイデアを形にしたい
❌ Agent Builderに物足りなさを感じる人:
- AIエンジニア:コードで柔軟に制御したい
- 研究者:真のエージェント開発を目指している
- 高度な自動化を求める開発者:ワークフローの限界を理解している
- 機械学習専門家:学習・適応機能が欲しい
OpenAIの戦略:エンタープライズのノーコード層を狙う
この二極化は、OpenAIの 市場戦略の転換を示しています:
- 従来の戦略:開発者向けAPI(GPT-4 API、Assistants API等)
- 新しい戦略:エンタープライズのノーコードユーザー層
Agent Builderは、技術的には「物足りない」ものの、 より大きな市場(非開発者層)を狙った戦略的製品と言えます。

驚異の開発速度:Codexが6週間で80%のPRを作成
自己実現するAI:Codexが自分の競合を作る
Agent Builderの開発には、驚くべき事実があります:
OpenAI関係者のX投稿より:
「今日ローンチしたドラッグアンドドロップのエージェントビルダーは、CodexがPRの80%を書いたおかげで、6週間足らずで最初から最後まで構築されました。」
6週間開発の意味するもの
従来の開発期間(推定):
- 企画・設計:2-4週間
- 開発・実装:12-20週間
- テスト・デバッグ:4-8週間
- 合計:18-32週間(4-8ヶ月)
Codex活用での開発期間:
- 企画・設計:1-2週間(Codex支援)
- 開発・実装:3-4週間(Codexが80%自動生成)
- テスト・デバッグ:1-2週間(Codex支援)
- 合計:6週間(1.5ヶ月)
開発速度の比較:
- 従来手法:18-32週間
- Codex活用:6週間
- → 75-81%の期間短縮
AIがAIツールを作る時代
この事例が示す重要な示唆:
- 自己加速するAI開発:OpenAIのAIがOpenAI製品を作る循環
- 競合の圧倒的劣位:Dify、N8Nなどは人間が開発、OpenAIはAIが開発→スピード差が歴然
- 「AIファーストの開発」の証明:Codexの実力を自ら証明するマーケティング
- スタートアップキラー:6週間で競合製品を作れるなら、あらゆる分野で模倣可能

競合スタートアップへの深刻な影響
被害を受ける主要スタートアップ
Masahiro Chaen氏のX投稿より:
「OpenAIからノーコードワークフローツール「Agent Builder」が公開。Difyやn8nのようにノードをドラッグ&ドロップで配置して、簡単にAIエージェントを作れる。操作方法はシンプルでUIも良い。MCPで複数ツール連携も可能。
これでまた幾重ものスタートアップが苦境に立たされた、、」
競合比較:Agent Builder vs Dify vs N8N
項目 | Agent Builder | Dify | N8N |
---|---|---|---|
提供元 | OpenAI | Dify(中国) | N8N(ドイツ) |
ブランド力 | 圧倒的 | 中程度 | 中程度 |
AI統合 | GPT-4o、o1統合 | 複数LLM対応 | API経由で対応 |
MCP対応 | ✅ ネイティブ | △ 今後対応予定 | △ カスタム実装 |
料金 | ChatGPT Plus統合 | 無料〜$59/月 | 無料〜$50/月 |
既存ユーザー | 2億人以上 | 数十万 | 数十万 |
開発スピード | 6週間(Codex) | 通常開発 | 通常開発 |
競争優位性 | ブランド、統合、スピード | 先行、柔軟性 | オープンソース |
スタートアップが直面する3つの脅威
1. ブランド力の圧倒的差
- OpenAI:ChatGPTで2億人以上のユーザー
- Dify/N8N:認知度が限定的
- → 新規ユーザーはOpenAIを選ぶ可能性が高い
2. 開発スピードの差
- OpenAI:Codexで6週間開発
- 競合:人間が数ヶ月かけて開発
- → 新機能追加でOpenAIが常に先行
3. エコシステムの統合
- OpenAI:ChatGPT、API、Operator等とシームレス連携
- 競合:外部サービスとの連携に手間
- → ユーザー体験でOpenAIが優位
生き残り戦略:スタートアップが取るべき道
差別化ポイント:
- オープンソース:N8Nのようにコミュニティ主導で透明性確保
- 特定業界特化:垂直統合で深い専門性を提供
- プライバシー重視:オンプレミス対応でエンタープライズ獲得
- 価格競争力:OpenAIより安価なプランで中小企業を狙う
- 柔軟性:複数LLM対応、カスタマイズ性の高さ

MCP(Model Context Protocol)による拡張性
MCPとは何か
MCP(Model Context Protocol)は、OpenAIが推進するAIモデルと外部ツールを接続する標準プロトコルです:
- 統一インターフェース:さまざまなツールを同じ方法で接続
- プラグインエコシステム:サードパーティツールの簡単統合
- セキュリティ:安全な認証・認可機構
- スケーラビリティ:大量のツール接続に対応
Agent BuilderでのMCP活用
接続可能なツール例:
- データベース:PostgreSQL、MongoDB、MySQL
- クラウドストレージ:Google Drive、Dropbox、S3
- コミュニケーション:Slack、Microsoft Teams、Discord
- CRM/営業:Salesforce、HubSpot、Pipedrive
- 分析:Google Analytics、Mixpanel、Amplitude
- 決済:Stripe、PayPal、Square
MCPの戦略的意義
- エコシステムのロックイン:MCPを使うほどOpenAI依存が深まる
- サードパーティの巻き込み:ツール開発者がMCP対応を進める
- Dify/N8Nとの差別化:MCP対応が遅れると競争力低下
- 将来の収益源:MCPマーケットプレイスで手数料収入の可能性

Agent Builderの実際の使い方
基本的なワークフロー作成手順
ステップ1:トリガーの設定
- ワークフローを開始する条件を定義
- 例:メール受信、Slack投稿、Webhook受信
ステップ2:処理ノードの配置
- ドラッグ&ドロップでノードを追加
- 各ノードに処理内容を設定
- 例:テキスト要約、翻訳、データ抽出
ステップ3:条件分岐の設定
- if-then-elseロジックで経路を分岐
- 例:感情分析結果に応じて異なる処理
ステップ4:外部ツール連携
- MCP経由でツールを接続
- 例:Slackに通知、Salesforceにデータ保存
ステップ5:テスト実行
- サンプルデータで動作確認
- エラーがあれば修正
ステップ6:本番デプロイ
- ワークフローを公開
- 継続的にモニタリング
実用例:カスタマーサポート自動化
ワークフロー設計:
- トリガー:メール受信
- ノード1:メール内容をGPT-4oで要約
- ノード2:感情分析(ポジティブ/ネガティブ/中立)
- 条件分岐:感情により経路変更
- ネガティブ → 人間のサポート担当に転送
- 中立 → FAQデータベースから回答検索
- ポジティブ → 自動返信
- ノード3:Slackに通知
- ノード4:CRMに記録
Agent Builderの制約
できること:
- 定型業務の自動化
- データの加工・変換
- 複数ツール間のデータ連携
- ルールベースの判断
できないこと:
- 予期しない状況への柔軟な対応
- 過去の経験からの学習
- 目標達成のための自律的な計画変更
- 複雑な推論を伴う意思決定

市場への影響と今後の展望
ノーコードAI市場の急成長
市場規模予測:
- 2025年:$30億(初期市場)
- 2026年:$70億(Agent Builder効果で急成長)
- 2027年:$150億(普及期)
- 2030年:$500億(成熟期)
主要プレイヤーの戦略
OpenAI:エコシステム統合戦略
- ChatGPT、API、Operator、Agent Builderの相互連携
- MCPで外部ツールを巻き込み
- Codexで高速開発を継続
Anthropic:真のエージェント路線
- Claude Computer Useで本物のエージェント実現
- 「Building Effective Agents」で啓蒙活動
- 技術的優位性の訴求
Google:Vertex AI統合
- Gemini Computer Useでエンタープライズ狙い
- Google Workspaceとの統合
- 企業向けSLA提供
日本市場への影響
日本企業の課題:
- DX推進の遅れ
- IT人材不足
- 業務効率化の必要性
Agent Builderの適用可能性:
- バックオフィス業務:経理、人事、総務の自動化
- カスタマーサポート:問い合わせ対応の効率化
- 営業支援:リード管理、データ入力
- マーケティング:レポート作成、SNS投稿
予想される導入率:
- 2026年:大企業の15%
- 2027年:大企業の40%、中小企業の10%
- 2030年:大企業の70%、中小企業の35%

まとめ:「エージェント」という言葉の誤用が問いかけるもの
本記事の重要ポイント
- Agent Builderは「ワークフロー」:専門家は「エージェントではない」と指摘
- ワークフロー vs エージェントの違い:自律性、適応性、目標指向推論の有無
- Anthropicの定義:真のエージェントには3つの柱が必要
- ターゲット層の二極化:AIオペレーション担当者は興奮、AIエンジニアは物足りない
- Codexが6週間で80%作成:AIがAIツールを作る自己加速の時代
- 競合スタートアップへの脅威:Dify、N8Nは苦境に
- MCP統合:エコシステムのロックイン戦略
- 市場は急成長:2030年に$500億規模予測
「エージェント」という言葉の誤用が示すもの
Agent Builderを巡る論争は、単なる製品批判ではありません。これは、 AI業界における「用語の厳密性」vs「マーケティング的効果」の対立を浮き彫りにしています。
OpenAIの視点:
- 一般ユーザーにとって「エージェント」は魅力的な言葉
- 技術的厳密性より、製品の普及が重要
- 市場拡大のためには分かりやすさが優先
専門家の視点:
- 「エージェント」の定義を曖昧にすべきでない
- 誤解を招く命名は業界全体の信頼性を損なう
- 真のエージェント開発への道筋を示すべき
私たちが取るべきアクション
ノーコードユーザー:
- Agent Builderを積極的に試す
- ワークフロー自動化の可能性を探る
- ただし「真のエージェント」ではないと理解
AIエンジニア:
- Anthropicの「Building Effective Agents」を学ぶ
- 真のエージェント開発に挑戦
- Agent Builderの限界を理解し、適材適所で活用
企業の意思決定者:
- Agent Builderで定型業務を自動化
- ROI分析で導入判断
- 将来的には真のエージェントへの移行を視野に
「ワークフロー」と「エージェント」の共存
Agent Builderの登場は、 「ワークフロー自動化」と「真のエージェント開発」の両方が必要であることを示しています。
- ワークフロー:定型業務の効率化、即座に導入可能
- 真のエージェント:予期しない状況への対応、長期的な目標
どちらが優れているかではなく、 用途に応じた使い分けが重要です。OpenAIの「エージェント」という命名には批判もありますが、ノーコードAI市場の拡大に貢献することは間違いありません。
私たちは今、 AIツールの民主化と真のエージェント開発という2つの潮流が並走する時代にいます。Agent Builderの論争は、この両立の難しさと重要性を教えてくれています。
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