AIがコードを書く時代。それでも「人間」に数百万ドルが払われた。
これは矛盾ではありません。むしろ、AI時代における人間の価値の本質を示す象徴的な出来事です。
Anthropicは、自社のAIエージェント「Claude Code」が誰よりも多くのコードを書いていたにもかかわらず、そのコードを作った「人間のチーム」を買収しました。なぜか?
何が起きたのか:Claude CodeとBunの話
Robert Greiner氏の分析によると、驚くべき事実があります:
「AnthropicのAIエージェント(Claude Code)は、BunのGitHubリポジトリで最も多くのプルリクエストをマージした貢献者となった。どの人間開発者よりも多くのPRを提出した」
さらに重要なのは、Bunのコードはすべて MITライセンスだということ。つまり、誰でも無料でコピーして使える。
それでもAnthropicは、Bunを作った人間チームを買収しました。
問題の本質:ボトルネックは「コード生産」ではない
Greiner氏はこう指摘します:
「ボトルネックはコード生産ではない。判断力(Judgment)だ」
この一言に、AI時代のエンジニアリングの本質が凝縮されています。
| 能力 | AIができること | 人間にしかできないこと |
|---|---|---|
| コード生成 | 大量・高速に生成可能 | — |
| 重要度判断 | — | どのコードが本当に重要かを見極める |
| リスク評価 | — | どの変更が致命傷になるかを判断 |
| トレードオフ | — | 短期の速さ vs 長期の安定を選択 |
判断力とは何か—5つの定義
では、AIにはできない「判断力」とは具体的に何でしょうか:
1. 今やるべきでない変更を止める力
AIは「この機能を追加して」と言われれば追加します。しかし、「今それをやるべきではない」と判断できるのは人間だけです。
2. 短期の速さより長期の安定を選ぶ力
AIは最短ルートでコードを書きます。しかし、3年後のメンテナンス性を考慮した設計判断は人間が行います。
3. 将来トラブルになる設計を事前に避ける力
経験を積んだエンジニアは、「この設計は後で問題になる」という直感を持っています。これはAIにはない能力です。
4. 不完全な情報の中で正解を選び続ける力
現実のプロジェクトでは、情報は常に不完全です。その中で最善の選択を続けることが、判断力の本質です。
5. 何を作らないかを決める力
AnthropicがBunチームに価値を見出したのは、彼らが「何を作らないか」を選び続けてきた実績があったからです。
経営者の本音は「お金の動き」に出る
Greiner氏のタイトル「Believe the Checkbook(小切手帳を信じろ)」には深い意味があります:
「本音は発言や資料には出にくい。採用、買収、報酬という行動に出る。言葉よりもお金の動きを見ろ。ツイートよりキャップテーブルが真実」
AI企業は公には「エンジニアリングはAIで置き換えられる」と言います。しかし、裏では数百万ドルを払って人間チームを買収している。
この矛盾こそが、真実を物語っています。
AnthropicがBunチームに見出した価値
Anthropicが買収で重視したのは、Bunのコードではありませんでした:
- JavaScriptツールチェーンを一から再設計した思考プロセス
- 意思決定の積み重ね
- 何を作り、何を作らないかを選び続けてきた実績
- システム設計、パフォーマンスモデリング、セキュリティ思考
これらはコードには現れない。しかし、コードの品質を決定づける本質的な要素です。
AI時代のエンジニアが磨くべきスキル
この分析から導かれる示唆は明確です:
| 磨くべきスキル | なぜ価値があるか |
|---|---|
| システム設計 | 全体を見通す力はAIには難しい |
| パフォーマンスモデリング | トレードオフの判断が必要 |
| インシデント対応 | 不完全な情報下での意思決定 |
| セキュリティ思考 | 攻撃者の視点を持つ経験が必要 |
| アーキテクチャ判断 | 長期的な影響を予測する力 |
Greiner氏は、技術リーダーへの提言をこう締めくくっています:
「AIはシニアエンジニアのforce multiplication(力の倍増器)として扱うべきであり、置き換えのシグナルではない」
「なんでも作れる」から成功するわけではない
AI時代の開発現場で陥りがちな誤解があります:
- ❌ AIでコードが書けるから、誰でもエンジニアになれる
- ❌ AIが速くコードを書くから、人間エンジニアは不要になる
- ❌ 量を作れることが競争優位になる
現実は逆です:
- ✅ 最適な判断をできる人材が最も価値が高い
- ✅ AIは判断力を持つ人間の生産性を増幅する
- ✅ 何を作り、何を作らないかの選択力が競争優位
まとめ:価値の源泉は移っていない
AIがコードを一番書く時代になっても、価値の中心は移っていません。
- AIは量を増やした—しかし、量だけでは価値にならない
- 本当に希少なのは判断力—何を作るか、何を作らないかを決める力
- 信じるべきは行動—宣伝文句ではなく、実際の「取引」
Anthropicが数百万ドルを払って人間チームを買ったという事実。これが、AI時代における人間の価値の最も説得力のある証拠です。
ソース:
関連記事:


コメント